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アルテミスの矢 Ⅲ 22

2008年02月09日 22:47

 アルテミスに帰艦し、やっと自分のベッドで寝る事が出来たケイは、朝遅くまで寝ていた。
 ボーっとしながら、遅い朝食を、一人、食堂で食べていた。
 もうすぐ、昼ご飯だ。目が覚めた時は同じ部屋のユキコなんかはとうにいなくなっていた。そうだ、他の皆は、まだ寝ているのかな。
 ケイは、パンを頬張りながら、まだうとうとしていた。ちょうどよい、艦の揺れで、このまままた眠ってしまいそうだ。
 そんな時、後ろから誰かに小突かれて、どきっとした。
 振りかえると、そこにいたのはナイト。一番疲れているはずであろう彼は、意外にさっぱりとした顔をしている。昨日の疲れは引きずっていないのだろうか。
「飯を食いながら寝るとは。変わった特技を持っているな?」
 こう来るよ。ケイは内心そう思いつつ、
「すごい特技でしょ?」
 と言い返した。
 ナイトはケイの隣に座ると、がつがつ食べ始めた。
「最初はどうなることかと思ったが」
 彼はそういいつつ、コーヒー牛乳を飲み干した。
「最近だいぶ、様になってきたかな?」
 ケイは、まだ残っているパンを口に放りこんで、横目でナイトを見た。
「・・・僕が?」
「そうそう、お前」
「様になってきたって?」
「いつ墜ちるかと、これでも一応心配していたんだが、余計だったかな」
「心配、してた?」
 ケイの問いに、ナイトは鼻で笑うと、言った。
「お前にはユキコさんがいる。お前が墜ちたら、かわいそうなのは彼女だからな、さてと」
 早々と朝食を終えたナイトは立ちあがった。
「クレイク爺さんの所に行くんだが、付き合うか?」
 ケイが、返答する間もなく、腕をつかまれて引っ張られて行った。
 かわいそうなのはユキコ。
 そう言う意味では、ナイトも家族がいると、ニンジャが言っていた事を思い出すと、同じなのかもしれない。
 戦う意味。生き残る為に戦う。そして家族の為に戦う。
 
 艦長の部屋に、クレイクとナイト、ケイは集まっていた。
 クレイクは、今にも泣きそうになりながら、ナイトが昨日手に入れたアデルの携帯電話を見ていた。
「爺さん、まだ、死んだと決まったわけじゃないんだから、今は俺達にできる事を精一杯やりませんか。それで、だ」
 クレイクはハンカチで涙をぬぐいながら、うなずいていた。
 ナイトはクレイクの肩をぽんぽんと叩くと、机の上や、周りをごそごそと捜し始めた。
「何捜してるの?」
 ケイが聞いた。
「充電だ、充電」
 なるほど、もっともな事で。
「それなら、こちらにありますが」
 クレイクが、コンセントのところで、手招きをしている。
 充電器は、コンセントに刺さったままになっていた。
 もう、何回言っても片付けないんだから、とクレイクがぼやいている間に、ナイトが携帯電話にプラグを差し込んだ。
「ふむ。爺さん、暗証番号知ってるか」
「それでしたら、たぶん」
 ケイが、自分より身長の高いナイトの後ろから覗き込んでいる前で、ナイトはクレイクの言った数字を入力した。
「OK、それで合っていたようだ。さて、爺さん、中を見て良いものかどうなのか」
「何か、手がかりになる事があるかもしれませんし、見てみませんか」
 ケイが言うと、クレイクは頷いた。
「坊ちゃんは昔からこういうものが嫌いな人でしてな。つい最近、持ちはじめたみたいですが、どうも、誰かとメールをしているらしいので」
「何だ、メル友でもいるのかい?」
 ナイトが携帯をいじりながら言った。
「電話帳。全部、軍関係者じゃないか。これじゃ、私用じゃなくて仕事用だな」
 そして、ついにメールの中を見ると。
「ビルから。『停戦協定が間もなく結ばれそうだ。相手は、金融、資金の流れや、商人を一時規制するようだ。そうなれば、内乱も早く収まるだろう』とあるが・・・」
 ナイトが、ケイの顔を見た。
 え?何?
「昨日の夜、何者かわからんが、無線で言っていたな、停戦協定云々と」
 そうだ、無線に入ってきたあの人物、誰だかわからないけど、重要な事を言っていた。
『極秘で行われている、停戦協定が間もなく結ばれる。これで、両国は争う必要がなくなるだろう。後は、過激派を殲滅すれば、内乱も終わる』
 極秘で行われている、と言った。その、極秘であるはずの内容がなぜメールで?
「これは。一週間前の日付だな」
 停戦協定を、敵国イジャールと結ぼうとしているのは、大統領。とすると、その近辺の人物なのだろうか。そして、無線に入ってきたその人物もそれに関連する誰かなのだろうか。
 もしそうなら、政府系の誰か、味方がいる事になるかもしれない。
「で、それに対する返信が。『お疲れ様です。送金システムを凍結すれば、過激派は消滅するでしょう。それまでは、彼らの注意をこちらに引きつけておきます。停戦協定が無事結ばれるのを、祈っています』とある」
 ナイトが腕組みをして、考え込んでいる。
「政府系の、誰かからのメールであろう事はわかるんだが、謎なのは、注意を引きつけておく、っていう内容だな。よく考えてみろよ、奴ら(過激派)は、もともと、政府がどうしようと知った事じゃない、この艦に隠されているブラックボックスが目的なんじゃなかったのか?わざわざ、注意を引くようなことしなくたって、こっちに向かってくるだろ?」
 確かにそうだ。しかも、大統領の持っているはずのブラックボックスがここにある、ということは、大統領も知っていてしかるべきだし、常に渦中の中であることは向こうだってわかっているのではないだろうか。
「まあ、とにかくさ、何とかしたら、戦争が終結する可能性大なんじゃない?」
 ケイが前向きな意見を言うと、ナイトも頷いた。
「そうだな、何とかなりそうだと思うし、何とかしなければならないとも思う。しかし、残念なのは、ここからは艦長の手がかりがつかめなかった事か・・・」
 ナイトは、言いながら、携帯をその場に置いた。
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アルテミスの矢 Ⅲ 23

2008年02月09日 22:57

「アルテミス。あなたの好きなところに行こう」
「あなたは、噂のような人ではなかったわ、アデル」
「いつまでも私はあなたのそばにいる、だから、死なないでおくれ・・・」
「私はどこにも行かないわ」
「アルテミス・・・」
 いないはずの、アルテミスの姿が空中に浮かんでいる。豊かなブロンドの髪が風になびいている。
 アデルは手を差し出すが、彼女までは届きそうも無い。
「アルテミス!」
 彼女は、いつものように、ちょっと涼しい顔をして、何事も無かったかのように微笑んでいる。 
「あなたがここに来るのはまだ早いわ」
 差し出した手が、空を切った。アルテミスまでもう少しで届きそうなのに、届かない。
 そして彼女は、さようなら、と呟くと、さらに高いところに行ってしまった。徐々に彼女の姿が小さくなっていく。これ以上小さくなったら、見えなくなってしまう。
「待って!」
 その時、アルテミスを追っていたアデルの体が急に落下を始めた。アルテミスの姿が見えなくなった。
「!!!」

 落下していく、途中で夢から覚めた。
 うっすらと目を開けると、右側にある窓から差し込んでくる光がとても眩しかった。
 ベッドに横になったまま辺りを見回すと、とりあえず、いつもの艦の中ではないことは確実に分かった。
 外からは、鳥のさえずる声と、時々木々を揺らす風の音が聞こえてくる。海の上ではない。
 ズキズキと痛む額に手をやってみると、包帯が巻いてある。その手首にも、包帯が巻いてあるのが見て取れた。そして、腕からチューブが伸びているのに気がついて目で追っていくと、点滴をされているのがわかった。
 ここは病院か、と思って辺りを見回してみるが、どうも、それらしくない。ヒビの入った壁、ドアの近くにあるのは机、窓際においてある本棚にはいろいろな本や雑誌。
 そこまで見て、急に感覚が戻ってきたのか、体のいろいろなところの痛みと、吐き気を催して口に手を持っていった。
 頭を枕に預けながら、今までのいろいろなことを一気に思い出した。
 最後に見たのは、ハーミット、だったはず。彼はあんなに敵視していたのに、一体どういう風の吹き回しだろうか。いや、それよりも、その後気を失ってしまって、あれからどうなったのかさっぱりわからない。とりあえず傷の手当てはされているようだが、ここはどこなのか、そして助けてくれたのは敵なのか、味方なのか・・・。
 もし敵なら、ここからさっさと逃げてしまいたいところだが・・・。
「うっ」
 起きあがろうとして、体中の激痛に声を漏らした。
 これでは逃げるどころか、何もできそうもない。
「まいった・・・」
 あきらめてここで寝ているしかないのだろうか。
 そんな時、何の前触れも無く、ドアが開いた。身構える暇も無く部屋に入ってきたのは、ハーミットことリョウ。
「お、何だ、気がついていたのか」
 リョウは、無造作にドアを開けたままベッドのところまでやってきた。
「ついてなかったな。しかしまあ、命あっただけでもよかったとするかい?」
 前にドッグファイトをしたときはものすごく敵対心を燃やしていたが、今度はそうではないようだ。昔、ライバルと言われ、同じチームにいた時代のリョウだった。
「どうして?なぜ、リョウが私を助けたりなんか・・・。それとも・・・」
 これから核の場所を聞きだすつもりでいるのか。
 しかし、そうにせよ、今はどうすることもできないので、あきらめて横になっている事にする。
 リョウはアデルの問いに、急いで答えずに、机の前においてあった椅子を引っ張り出してきた。それに座ると、少し真剣な顔をして、言った。
「本当なら助けたりしないところだがな。俺の立場上は。だが、バルディウスも殺られたし、借りもあるからな、返しておく」
「借り?」
 身に覚えの無いので、アデルは怪訝(けげん)そうな顔をしていた。昔、リョウにはよく借りを作ったものだが、貸した覚えはない。
「まあ、なんだ」
 リョウは、照れ隠しのように、咳払いをして、続けた。
「メノーリを返してくれただろう。俺、アイツを偵察に行かせてから、ものすごく後悔してた。本当なら、スパイなんてバレたら命がないところじゃないか。いくらバルディウスに命令されたからってさ、して良い事と悪い事があるさ」
「・・・なんだ、そんなこと」
「そんなこと、じゃない、俺にとっては!」
 リョウは少し声を張り上げた。少し顔が赤いようだ。
「別に、借りというほどのものでもないでしょうに。そんなことよりも、バルディウスが殺られたというのは?」
 別に、もともと恩着せがましくするつもりはなかったので、アデルはあっさりと話題を変えることにする。
「ああ、メルバスも取り返されたしな、そこに丁度来ていたヤツも殺されちまった。まあ、いいけどな」
「メルバスにいたバルディウスですよね?あれ、影武者でしょうに」
「え!!」
 あまりにびっくりしたリョウは椅子から転げそうになった。
「嘘!なんでアイツが影武者だとわかる?」
「だって。顎の下に黒子があるでしょう?それが、なかった。それに、声が違ったと思います」
 アデルはその時の様子を慎重に思い出しながら言った。地下牢に入れられたとき、イジャールからの資金や、核についてペラペラと喋って行った、あのバルディウスは確実に偽者だと思った。
「それならさ!俺がお前を助けたのがバレたら最悪じゃん?」
「そうかもしれない・・・」
「ってことは、だ、リュスペアにホンモノがいるってこと?」
「さあ、それはわかりませんね。ヤツがどこで何してるかなんて」
「ヤバイ」
 リョウは、椅子から立ちあがって腕組みをした。
「俺ん家でさえヤバイかもしれん。そういうお前だって、今度捕まったら、マジで殺されるぞ」
 アデルは、リョウから目をそらして言った。
「核が欲しいんでしょう。私を殺したところで、核は手に入りませんよ。それに、もうすぐタイムリミットですよ」
「え。タイムリミットって、何だ」
「さあ?」
 アデルは、まるで人事のようにそう、言った。
「それよりも。吐き気がひどいんですが、胃薬でももらえませんか」
「あー。闇医者を呼んでくる。ちゃんと金払えよ!ま、大金持ちにゃ、いくらかかったって痛くも痒くもないんだろうけどな。全部俺が立て替えてるんだからな!今月食っていけないんだからなっ!」 

アルテミスの矢 Ⅲ 24

2008年02月09日 23:03

 あれから数日。
 メルバス基地は、穏健派の他の基地からの補給によって完全に基地機能を取り戻した。さらに、リュスペアからの侵攻に備えて、以前にも増して戦力が補強された。
 そして、ビアードが上層部に掛け合ったらしく、アルテミスにも、人員が新たに配置される事になった。さすがにX-2は回せないらしいが、他の戦闘機も配備された。
「もうすぐ、リュスペアを攻めるらしいぜ」
 あいかわらず、マイペースで飲んでいるのはニンジャ。彼はいつも夜になると、この食堂兼酒場で一杯やっている。メンバーたちはいつからか、食堂を薄暗くして、カウンターでそれらしく飲むようになったらしい。
 たまたま隣に居あわせたケイとユキコは情報通の彼の話をいろいろ聞いていた。まあ、その話も艦の中を出ないものなのだけれども。
「だってさ、当初から、リュスペアを目指す作戦だったじゃない?」
 と、ユキコ。
「ま。そうだがよ?いろいろあっただろうがよ。将軍も殺られたし、全部隊を指揮する人間がいねぇ事にはな。艦長も帰ってこねぇし、俺等がひいきにされることも、今後はねぇかもな」
「そもそもな、今までが楽すぎたんじゃないかい?好き放題やってさ」
 その間に割って入ってきたのは、エッジだ。
 確かに、この艦の上では他の部隊では考えられないぐらい、好き放題やっている。
「そりゃ、いえてるけどよう。だって、ブラックボックスがあるって事はよ、俺等、囮だってことじゃねぇか。今までずっと囮だったんだぜ?」
 と、ニンジャ。どうやら、囮だった事に不服らしい。
「ま、最初から、この艦がそういう位置付けであったと考えれば、つじつまも合うんじゃない?前線に送られなかったことといい、遊んで暮らしてたことといいさ」
 と、ケイ。
「まあ、そうだがよ。そりゃあ、他の部隊よりかは遥かに楽かもしんねえさ。しかし、今となってはそうも言ってられねぇ、いつ敵から攻められるか、わかったもんじゃねーぜ?」
 ニンジャは、そういうと、がぶがぶっと手もとの酒を飲み干した。
 確かにそうだ。だが今のところ、敵の来る気配はない事を思うと、まだブラックボックスのありかが知れていない、と考えられるけど。
「今日は進んでるね。ほどほどにしときなよ、いつ敵が来るかわからないんだったらさ」
 と、マスターがニンジャに新しいカクテルをつくりながら言った。
「こまけーこと言うな、今のうちに飲んどかないと、明日は飲めねーかもしれねーだろうが」
「港のバーでそう言ってたから、艦長が酒という酒を買ってくれたんじゃないか、金にものを言わせて」
「確かに港でそんなこと言ったかもしれねえ、でもな、死んじまってからじゃ飲めねーだろ?」
「んなこと言ってたら、死ぬまでずっと飲みつづけなきゃいけないよ、はい、これでラストにしなよ」
 マスターが、ニンジャに一杯を差し出した。ニンジャはしょうがねーな、とか言いながら、それをちびちびやる。
「そういえばよ、最近風紀委員こねえな」
 エッジがニンジャのカクテルを味見して、ニンジャにひっぱたかれた。
「こねえな。あきらめたかな」
 そんなエッジの言葉が終わる前に、スクランブルのサイレンが鳴り響いた。
「あー。こんなときに限ってこうだよ」
 ケイは、もう寝る予定だった頭を起した。
 隣で、ユキコが心配そうな顔をしてケイを見ていた。

 修理の完了したX-2に乗ったケイは、酔っ払ったニンジャよりも先に空に上がっていた。
 灯り一つ無い海の上は真っ暗で、どこが海でどこが空なのかの見分けすらつかなかった。月も三日月。僅かな月明かりで見渡せるものは何もない。
「あー。東に機影を発見したそうだ」
 ビアードからの通信だ。
「民間の可能性もあるが、こんな危険区域に迷い込んでくるのもおかしい。確認してきて欲しい。念のため罠には注意せよ」
 民間機か。何もこんな時間に、しかもこんな空域に迷い込むことはないのに。
 ケイは呟きながら、レーダーを確認した。
「エッジ隊長?」
「あー?」
 そういえば、エッジも結構飲んでたかもしれない。
「大丈夫かな、みんな酔っ払ってるのに・・・」
「あんだよ、心配ならお前が隊長やれってーの」
 エッジの無責任な返答。民間機一機だから、馬鹿にしているのだろうか、まったく。
「ほらほら、ケイ隊長?指示指示」
 指示と言ったって。いきなり隊長やれと言われたって。
「えー」
 ケイがどうしたらいいのか戸惑っていると、ナイトからの指示が飛んだ。
「こちら、ナイト。どうやら、第二部隊のニンジャ殿はかなり酔ってらっしゃるみたいだから、後方支援に回ってもらおうか。で、第三部隊、ケイ隊長?」
 ナイトまで、そんなこと言う。
「我々は東から回るから、ケイ隊長は西から回ってくれ。この前現れたような、ステルスには気をつけろよ」
 その、最後の一言に、ケイのアルコールが一気に吹き飛んだ。冗談じゃない、この前のロックオンできない機体に絡まれたら殺られるかもしれない。
「エッジ。行くよ。寝てると海に落ちるぞ」
 寝るか馬鹿たれ、とエッジからの罵声を浴びつつ、ケイはナイトと歩調を合わせて飛行した。

 民間機らしきヘリに近づいた。今のところ、それ以外の機影は見つからない。心配していたような罠ではなかったようだ。ただし、相手があのメタリックなステルス機でなければ、の話だが。
 ナイトが、周辺を飛行しながら、回線を開いた。
「やれやれ。しょうもない。ただの民間機か・・・。あー、そこの民間機!どこへ行くつもりだ!場合によっては武力行使を辞さない。速やかに指示に従いこの空域から離脱せよ!」
 それに対して、返ってきた言葉は、実に意外で予期しないものだった。
「・・・ナイト?私です、アデル・シャンデュールです。後方に敵機が控えているので注意して」
「え。艦長?何で?」
「詳しい話は、また後ほど」
 レーダーに敵影を捕らえた。本当だ、ここで会話している場合ではないようだ。
 ヘリがアルテミスの射程内に入ってしまえばこちらのもんだが、それまでにはまだ少しかかりそうだ。となると、それまでの間、こちらに引きつけなければならないわけか。
「ナイト。ロングレンジミサイルで、出鼻を挫こう」
 ケイの提案に、ナイトも賛同した。
「了解。ニンジャ、護衛は任せた」
「あいよ」
 ナイト、ケイの部隊はそれぞれ展開して、敵機を捕捉しにかかった。

アルテミスの矢 Ⅲ 25

2008年02月09日 23:12

「あーあ。酔いも覚めちまったぜ」
 ニンジャの情けない声を聞いた頃には、東の空が明るくなっていた。
 敵部隊は小規模で、形勢が悪くなると即座に撤退にかかった。ケイ達も、無駄な消耗戦は控える為、逃げるものは追わずに空母に帰って来た。
「今何時だよ」
 甲板で、エッジがあくび混じりな声で言った。
「四時だな。部屋に帰って一眠りすっか」
「あう。風呂に入って寝よう」
 二日酔いのニンジャとエッジは部屋に直行する様子。
「緊張感のない奴等め」
 ナイトが呆れて二人の背中を見ていた。結局のところ、敵機を一番撃墜したのはナイトだったし、それを援護したのはケイだった。かと言って、別にナイトは怒っている様子もなかった。いつだったか、彼が言っていたのをケイは思い出した。「体調が悪かろうとそうでなかろうと出撃命令はいつだって出るからな、それを援護するのがチームというものだ。一歩間違えば死に直結する戦場で、どれだけ相手のことを思いやれるかが重要だ」
 その言葉通り、彼はいつもメンバーの力量と相談しながら指示を出していた。
「まあまあ。深い事考えてると、ハゲるよ」
 そういうケイを、ナイトはひっぱたいた。
「ったく。どいつもこいつも。この前みたいに罠にはめられたらすぐやられるぞ。あいつら」
 メルバス付近で、四名のパイロットを失った時の事だ。
「やられなかったじゃない、あの二人は」
「悪運が強いんだ、あれらは」
 一同が、薄明るくなった空の下、部屋に戻ろうとしているところに、無事艦に辿り着いた、アデルとリョウが姿を現した。
「お疲れ様です」
 先に言ったのはアデルのほうだった。
「艦長!無事で何よりです」
 ナイトが言った。
「いいえ。無事ではありませんけれど」
 アデルは、額の包帯を隠す為にバンダナを巻いていたし、全身を包み込むようなマントを押さえている右手からは包帯がちらりと見え隠れした。
「何があったんです?それに、そこにいるのはハーミットじゃないですか!」
 ナイトはリョウを指差してびっくりして言った。ナイトはハーミットの事を知っているようだ。そういえば、昔シュルキアにいた頃、同じチームだった事があると言っていたっけ。
 ケイは、いつもめ事が起こるのかと興味津々で後ろから覗いていた。
「久しぶりだな、ナイトにニンジャ」
 リョウが少しも悪びれずに言った。
 それにしても、なぜ以前攻撃してきた張本人がここにいるんだ!艦が沈みそうになったんじゃなかったのか。
「詳しい話は中でしませんか」

 会議室に、一同は集まっていた。
 ビアードから、ブラックボックスがここにあると告げられたパイロット達と、リョウ。ケイも、定位置に着いていた。何も食べる時間がなかったので、こっそり食堂で盗んできた団子を頬張っていた。
 後から、アデルが戻ったのを聞きつけたクレイクが慌ててやってきて、泣きながらアデルに飛びついた。
「坊ちゃん!」
「あ・・・、ちょっと」
 飛びついたクレイクを支えきれなかったアデルは、後ろに倒れこんだ。それを見ていた近くに立っていたビアードが、慌てて二人を起した。
「申し訳ございません」
 クレイクがやはり泣きながら言った。
 アデルは、サングラスをしていて表情がわからなかったが、胸をおさえてしばらく起きあがれなかったところを見ると、怪我の状況があまりよくないのかもしれない。
「大丈夫ですか」
 ビアードがアデルに肩を貸して、近くの席まで連れていった。そして、いつものようにスクリーンに周辺の地図を表示させる。簡単な現在の戦力分布図も表示された。
「まずは。聞きたい事は多々ありますが、何があったのか話してもらえますか、艦長」
 ビアードがいつものように、業務的な口調で言った。
 確かに。ニンジャが昨日の夜酒場で言っていたように、囮だったのか、と言う事。そして、メルバスからこの艦に戻る時に通信に割り込んできた何者か。あれは今作戦に関係があるのか、メールに入っていた人物と何らかの繋がりがあるのか。今後もこの艦は囮であり続けるのか。
 ケイの中でも、いろいろな疑問が沸き起こっていたが、踏み込んだ事を聞くような立場ではないし、今は事の経過を見守るしかないと思っていた。
 それは他のメンバーも同じだったかもしれない。
 そして、その疑問に答えられる立場の人物と言ったら、ビアード以外には艦長しかいない。
 アデルは、全員の視線を一身に浴びて、重たい口を開いた。
「敵の目的は、ブラックボックス、つまり核でした。そして、それの在り処を知っているのは私しかいない」
「それが、この艦のどこかに在る、と」
 ビアードが言葉を継ぐように言った。
「そ、それは・・・」
 アデルが口篭もった。
「申し訳ありません、誰にも口外しない約束でしたが、状況が状況だったので、ここにいるメンバーにはそのことについてお話しました」
 ビアードは少し申し訳なさそうに言った。
「あれから、いろいろありました」
 今までにあったことをかいつまんで、ビアードが説明した。アデルは黙ってその話を聞いていた。
「敵はこの艦を狙っているのでしょう。沈める気はないにせよ、ブラックボックスを探しに来るでしょう。つまりは、常に敵からはマークされている状態にあると言えます。エルード軍からすれば、我々は都合の良い囮なのですか?」
 ビアードが、アデルの座っている席まで歩いてきて言った。
「この件は、軍部における最大の機密であり、今ここで全てを話すわけにはいきません」
 アデルはしっかりとした口調で言った。
「例え、この艦の全ての指揮を任せている、ビアード司令にも言えない事はあります」
「待ってください、何もかも秘密のまま、ではあんまりではないですか」
 ナイトが立ちあがって言った。彼にも彼の考えがあるらしく、携帯の中身に関しては一切触れなかったが、やはり、核をはじめとする重要な事項を何一つ知らされないまま、作戦を実行することに抵抗があるのだろう。
「ここのところ、我々に対する敵の攻撃は厳しくなってきています。現に、X-2も四機失いました。今までは運が良かっただけで、今後運にも見放されたら全滅だってありうるでしょう。最初からやられると分かっていて飛ぶのと、作戦に基づいて計画的に飛ぶのとでは雲泥の差があります」
 会議室内は静まり返って、ナイトの声だけが響き渡った。
 ケイも、自分の思っていた事とナイトの発言が一致した。
「今のこの艦の状況だと、敵が来るのをただ、じっと待っているようにしか思えません。いくら部隊が補強されても、現状は変わっていません。例のブラックボックスを何とかしない限り、現状を打破するのは難しいのではないですか」
 沈黙に包まれた部屋の中。ナイトの言う事には一理あった。
 そして、パイロット達全員が思っている事でもあった。
「では」
 重たい空気の中アデルが切り出した。
「作戦の一部を、ばらしましょう。しかし、それで皆さんが満足するかどうかは別ですが」
 彼はしばらく間を置いてから、切り出した。
「バルディウスは必ず攻めてくるでしょう。その時は、このメンバーだけでは押さえきれないでしょう。だから、艦を沈めます」
「本気ですか!」
 ビアードが驚いて言った。
「いや、それよりも、バルディウスが攻めてくるとはどういうことですか。奴は死んだのでは」
「死んだのは偽者だと思われますが、確かな情報ではありません」
 えー!!!
 ケイは声には出さなかったが心の中で絶叫していた。せっかくやっつけたのに?あれは全部無駄?うっそー!
 丁度前の席にいたエッジがうなだれていたケイの頭をなでた。
「超ショック・・・」
「まだ次がある。手柄はいつでも立てられるって」
 エッジはエッジなりに慰めてくれているらしい。

アルテミスの矢 Ⅲ 26

2008年02月09日 23:17

 徐々に天気が悪くなり、その日は朝から雷を伴って雨が激しく降っていた。
「坊ちゃん、先ほどは失礼致しました。あれ。どこにいらっしゃるんですか」
 クレイクの声が隣の部屋から聞こえる。
 答える元気のなかったアデルは、ベッドの上で壁に背中をもたせかけて座っていた。
 やがて、足音は部屋に近づいて、ドアが開いた。
「ああ、こちらでしたか。お食事をお持ちしましたよ」
 いつになく、クレイクは上機嫌だった。テーブルの上にそっと朝食を乗せる。
 が、古傷のあった胃がひどく痛くて食欲などない。
「調子が悪いんですか、それなら、医務官を呼んできましょうか」
「あ、いえ・・・」
 年老いたクレイクに無駄な心配をさせるわけにはいかない。
「大丈夫です。お食事は済みましたか?」
「いいえ、まだです」
「それなら、私の事は気にしなくてもいいですから、どうぞ行って来て下さい」
 クレイクは心残りだったのか、渋々部屋を出ていった。
 誰もいなくなった静かな部屋で聞こえるのは、時折響く雷の音、雨の降りしきる音だった。
 遣る瀬無い気持ちでいっぱいだった。
 敵も味方も、ブラックボックスがこの艦にあると思いこんでいる。
 しかし、実は、ブラックボックスは本当はこの艦にはない。
 流したブラフ(はったり)によって、大統領から敵の気を逸らす為の一つの作戦であった。
 和平交渉を無事締結させるまでは、それを良しと思わない過激派に邪魔させないための、カモフラージュであった。 
 案の定、バルディウスはこの情報に飛びついてきた。自分の権力を内外に誇示する為には核は絶好の獲物である。

 誰にも話すことの出来ない事実と、これ以上どうすることもできない現実。
 この艦に乗る、皆の命がかかっている。
 責任ならいくらでも負えばいい。罰せられてすむのならそれでもいい。傷が痛むぐらいなら我慢すればいい。
 多くの仲間を失い、それでもなお、この艦全体が危険にさらされているのが現実だった。
 そしてそれが分かっていても作戦を中断させるわけにはいかない。味方を切り捨ててでもそれを断行するだけの強さが、彼には足りなかった。
 だが、この事実は今はまだ誰にも話すわけにはいかなかった、この戦争が終わるまでは。
 全て終わってから、この無茶な作戦に巻き込んだ事を、皆に責められても、それは構わない。
 しかしそれまでに、一体何人が生き残るだろう。 

 ドアをノックする音に、彼は我に返った。
 そこから顔を覗かせたのは、ナイトだった。
 ナイトはいつも皆を気遣っているし、作戦を立てるときは誰よりも神経質になる。誰よりも仲間を思いやる気持ちが強いのは、アデルも分かっていた。だから、今の状況に納得しない、と言われても仕方ない。
「失礼します」
 会議室の話しの続きだろうか、しかし、これ以上話せることは何一つない。
「久しぶりです、艦長」
 ナイトはわざとらしく敬礼して見せた。
「ここのところ、ゆっくり話す機会もなくて」
 彼は言いながら、テーブルにあった椅子に腰掛けた。
 そんなナイトに、アデルは先に口火を切った。
「申し訳ないんですが、私からはこれ以上言える事はないんです」
「それなんですがね、後でニンジャに怒られましてね」
 ナイトが、意外な事を言い出した。
「さっきは余計な事まで言ってすいませんでした。言われた事をこなす、それが我々の任務でした。それ以上の事に首を突っ込むなと、ニンジャに言われました。自分もその通りだと、思います」
「・・・」
 予想していた言葉と随分かけ離れていたので、アデルは返す言葉につまった。
 ナイトは気を使ったのか、話題を変えた。
「冷めますよ。朝飯」
 そう言って、ウインナーを一つ摘んで口に持っていった。
 アデルは、やりようのない気持ちを押さえて、ふらふらとベッドの上から降りた。そしてゆっくりと、テーブルについた。
「今日はひどい天気ですね、せっかくサッカーやろうって言ってたのに、台無しだ」
 そんなさりげないナイトの言葉も、アデルの胸に、ぐっと来るものがあった。気を使ってくれているナイトでさえ裏切って、死地に追い込む事になるかもしれない。
「・・・最低だ・・・。私は最低だ・・・」
 アデルは、片手で顔を覆っていた。
「え・・・」
 ナイトがウインナーに持っていきかけた右手を止めた。
 その時、丁度テーブルの上に置いてあった携帯が鳴った。
 アデルが、内容を確認すると、一通のメールが入っていた。
「大統領・・・」
 『無事和平交渉が成立した。明日にはマスコミに公開し、両国中にそのニュースが広がる事になるだろう。イジャールから、エルードへの送金を停止、武装商人との取引も一切禁止することとなった。これで少しは戦況が変わるだろうか』


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