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アルテミスの矢 Ⅲ 1

2008年01月13日 00:55

 吸いこまれそうなどこまでも続く青い空の下には、青い空を吸収したかのような美しい海が広がっている。太陽の光をたまに反射するのは小さな波。時折海の色が変わっているのは、水中に珊瑚が広がっているからだ。そこでは色とりどりの魚が泳ぎ、そこは楽園を思わせるほど美しい世界が広がっていた。
 そんな美しい世界を打ち消すように、時折、爆音を轟かせながら戦闘機が飛んでいく。近くには多くの戦艦が係留されており、大きなドックもいくつか沿岸に並んでいる。
 ドックの内陸には滑走路や、軍の必要施設が立ち並んでいる。
 周りの風景とはミスマッチな高い塀が基地を取り囲み、中はものものしい警備体制がしかれている。
 そこは、この辺り一帯の土地を占めている、シュルキア基地。
 空母アルテミスは修理の為にエルード軍基地、シュルキアに停泊していた。前回の戦闘でミサイルを複数食らった為だ。同時に、新しい武装の装備と点検、さらには新機種を含めた戦闘機の配置、強化等も行われていた。
 シュルキアはエルード軍の穏健派で有名なシャンデュール将軍の御膝元で、エルード軍の中では、例外的存在であるアルテミスが停泊する場所はここしかない。もともと、アルテミスは将軍直属の部隊で、エルード軍としての、というよりも、将軍のための作戦行動を主な任務としている。
 将軍はエルード大統領とも面識があり、穏健派と言われるだけあって、敵国イジャールとの戦争を終結させるために活動している。それに対するのが過激派と呼ばれている連中で、将軍が戦争をせずに今の地位に居座りつづけることを快く思っていないようだ。
 そして、ついに過激派の一団が、敵国のルビルという地域を攻めるが、アルテミスの活躍により侵攻を阻止。将軍とイジャール側の話し合いも上手くいったらしく、それが両国の戦いの火種にならずにすんでいる。
 エルード、イジャールの両国首脳はどちらも穏健派よりの考え方で、世論も、これ以上戦いを広げることで国が疲弊するのを防ごうという考え方が一般的なようだ。停戦協定を結ぶことにより、戦争を終結させる動きもあるのだが、事態は思わぬ方向に動くことになった。
 過激派が、ルビルを攻め、それを穏健派の将軍直属部隊アルテミスが攻撃したことにより、穏健派の立場が悪くなったのだ。過激派の策略によって、穏健派が敵国イジャールと、なんらかのパイプラインがあるのではないかと噂になっている。
 特に、立場が悪くなったのが、直接過激派を攻撃した空母アルテミス。その前も、自軍基地のテスタル基地を攻撃したことがあったため、実はイジャールの部隊ではないかとエルードの中でささやかれている。
 が、これは世論を過激派有利にもっていくための策略であると思われる。
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アルテミスの矢 Ⅲ 2

2008年01月13日 01:01

「このままでは、我々はエルード軍からも攻撃されかねません」
 空母アルテミスで指揮をとっているビアード・フランクが言った。参謀官として活躍している。エルード軍の中でも戦歴が優秀で、将軍によりアルテミスに引き抜かれたのだった。ただし、頭脳労働が主で、お腹がでているせいで肉体労働には不向き。
「そのようなことがないように、我々が努力をしていくつもりだ」
 ブラインド越しに、外を眺めながら言うのは、シャンデュール将軍だ。暗い会議室に、外の光りがわずかに漏れている。
「調査をしていると、過激派は思いの他、勢力を強めていることが分かった。特に新兵器を開発していたり、闇の商人を使ったり、大量の資金が流入していることは確かだ。まずはその資金源をストップさせ、過激派をこれ以上増長させないようにする」
 将軍が拳を握り締めながら言った。彼は歳こそとっているものの、それを感じさせないバイタリティの持ち主。そして紳士的で寛大な人物として、基地内外からも信頼がある。
「では、当面の我々の仕事はどうなりますか」
 ビアードが言った。その言葉にはいろいろな意味が含まれていた。エルード軍の中でも立場が悪いし、敵からも狙われる立場にある、しかも、アルテミスの乗組員は少ない。こんな状態で今後一体どうするのか?という事だ。
「艦が直るまでは全員休暇、でいいじゃないか?」
 将軍は、机の上に肘をついてそっぽを向いているアデルに向かって言った。彼は将軍の子息で、かつて将軍の策略により、新型機Xファイターに搭乗し、英雄として祭り上げられた事があったが、今では軍に籍を置かずにいる。にも関わらず、その後も将軍の特別扱いのおかげで、アルテミスに乗っていると周囲には思われている。彼は、不機嫌そうに将軍に言い返す。
「艦が直るまでには誰もいなくなってるんじゃないですか」
「それは困るな」
 将軍が肩をすくめた。
「この状況下で出航しろと言われたら、私も艦を降りますけど」
「そう言うな。お前の艦だぞ」
「いつから私のものになったんですか。私は空母なんか要りません」
「お前はいつもそうだ。困ったものだ」
 将軍はビアードに向き直った。ビアードは苦笑している。
「あなたはどうするね、ビアード君」
「自分は、将軍の命令に従います」
 ビアードは軽く敬礼して見せた。
「こら、アデル、大の大人が子供みたいなこと言ってるんじゃない、お前の意見はどうなんだ」
「ビアード指令と同じですよ」
 アデルは長い髪をかきあげながら言った。
「ただし。敵機を早く捕捉するためにレーダーを補強すること、対空装備を補強すること、艦上機をワンランク上の機体にすること。それから」
 まだあるのか、と将軍が頭をかいた。
「対ステルス対策、人数が少なくても対処できる自走ロケットの装備、X-2で手におえない敵を片付けるための、新しい機体」
「・・・ふむ」
 将軍は腕組みをした。それだけの装備を短期間に用意できるだろうか。
「まだ試験中でよければ一機回してやる。他の用件も、考えておく。それでお前の気が済むのならな」
 アデルは、額のサングラスを下ろしながら立ちあがった。
「私一人じゃ、ないんですから」
 彼は、部屋を出ていった。
 会議室に残された二人はしばらく黙っていたが、将軍が沈黙を破った。
「一応、考えてるのかな、あいつ」
 ビアードが、再び苦笑した。
「ちゃんと考えていらっしゃいますよ。ここに来る前に、実は何度も私と話し合っています。今後のことも含めて」
 将軍が長いため息をついた。
「迷惑をかけるな、ビアード」
「いいえ。そんなことはありませんよ。それよりも、飲みにでも行かれたらどうです、こんな機会はなかなかないですよ」
「それがなぁ、アイツ、あんな調子だしな」
 将軍は髪形を整えて帽子をかぶりなおした。
「照れくさいだけじゃないですか?」
「いやぁ」
 将軍は左右に首を振った。そして再びブラインドの向こうを眺めるような遠い目をして言った。
「私は、昔から仕事ばかりしていて、家に帰らなくてな。母親も早くに亡くなり、アイツを育てたのは使用人と執事のクレイクだった・・・」
 だからあまり接する機会がなかったのだ。
「だったらなおさら」
 ビアードが将軍の背中をぽんと叩いた。
「うーむ」

アルテミスの矢 Ⅲ 3

2008年01月13日 01:10

「だから、ちゃんと聞いてるのって言ってるじゃないの!」
 工事中のアルテミスのとある一室から大声が上がった。
「だったら、他の話をすんなよ!」
「ちょっと話が外にそれただけでしょうが!」
 部屋の中ではユキコとケイが犬も食わない大喧嘩の真っ最中だった。
「だーら、最後まで人の話を聞けって言ってんだよ」
 ケイがイライラしながら言った。
「いちいち最後まで言わなくったって、だいたいでわかるでしょうが!」
 ユキコは手に持っていた洗濯物をベッドの上に投げつけた。
「分かるかどうか分かんないからちゃんと最後までしゃべってるんだろ!」
「うるさいなっ、一から十まで細かく言わなくったって、だいたい、で分かるでしょう、普通!」
「だから、わかるかどうかは分からないだろっつってんだ!」
「あーもう!頭悪いんじゃないの!」
「何だと!そんな言い方ないだろ!」
「どんな言い方したって馬鹿は馬鹿よ!」
「何でそんな言われ方しなきゃいけないんだ、頭に来るっ」
「頭に来たのはこっちのほうよ!このっわからずや!」
 洗濯物の山が、ケイに降ってきた。
 言葉ではかなわないケイは、たまらず部屋を飛び出した。
 あー腹立つ!
 甲板に上ると、空がオレンジに染まり、夕日が水平線に向かって落ちようとしていた。所狭しと並べてある戦闘機が、長い影を作っていた。
「派手にやってるじゃないの」
 不機嫌そうに歩いていたケイのところに、ニタニタしながらやってきたのはエッジ。彼はナンバー3の実力を持ってはいるが、そんなことは気にしていないようだ。そんなことよりも、毎日面白ければいい、というのが彼のモットーみたいだ。
「ちぇ。聞いてたのかよ」
 膨れっ面のままケイが言った。
「あれだけ大きな声出してりゃ、誰にでも聞こえら」
 エッジは楽しそうに言った。ケイは、隙間なく並んでいる戦闘機の合間を縫って歩いていく。
「頭冷やしたら、謝りに行くんだろ?」
 な?エッジが嬉しそうに騒いでいる。
「騒ぐなよっ、まーったく!」
 あー腹が立つ。ユキコもユキコだけど、コイツもコイツだ。
 ケイはおもいっきりエッジを睨みつけた。
「男は素直に謝っときゃあいいんですよ」
 突然、足元から声が聞こえて、ケイは飛び上がった。
 きょろきょろ辺りを見まわすと、戦闘機の翼の陰にアデルが座っていた。
「艦長、なーにやってるんすか」
 エッジがのぞき込む。
「ちょっと、データを・・・」
 ノートパソコンを地面に置いて、戦闘機とコードをつないで何かやっているようだ。そういえば、戦闘機を飛ばすだけじゃなくて、プログラム関連にもとても強かったな。艦の技士達と話しているのをたまに見かける。
 その戦闘機、よく見てみると、今までに見た事のない機体だ。形はX-2に似ているけれど。
「これは、開発中のX-3で、いつものように不良品だと困るなと思いまして」
 そういえば、以前テスト中のX-2が墜落したことがあった。
 彼は、くわえ煙草のまま、脇に置いたメモ帳を見ながら、何かを打ち込んでいる。
「そうそう。喧嘩したら、自分が悪くなくても謝る。機嫌をとることも、必要かもしれないですよ」
 アデルはキーボードの手を止めて、言った。
 相変わらずケイはむっつりしていたが、アデルの煙草を持つ左手の薬指に光るものを見つけた。夕日でオレンジに光ったのだ。
「艦長、結婚してたんですね」
「え・・・、あ」
 アデルは指輪に目をやった。少し答えに困ってから言った。
「これは。・・・実は、死に別れました。もう随分前ですけど」
 彼はなんともなかったかのようにあっさり言ってのけた。
「す、すいません」
 ケイはとっさに謝った。
「いえ、忘れられなくて・・・」
 その時、どどどど、とものすごい足音が聞こえてきた。それはだんだん近づいてくる。
「コラー!」
 地鳴りと共に姿を現したのは、風紀委員。
 三人とも固まったまま、風紀委員を見ていた。
「ここは禁煙ですっ」
「は、はい」
 アデルはその辺の地面で火を踏み消した。
「ポイ捨てもダメですっ」
「わ、わかりました」
 ったく、油断も隙もないんだからっ、とぼやきながら風紀委員は去っていった。

アルテミスの矢 Ⅲ 4

2008年01月13日 01:25

 その日の夜、乗組員全員がブリーフィングルームに集められた。
 そして、ビアードの口から、全員の休暇が告げられた。
 ただし、期限付きではあったが、あまりに遠くでなければ故郷に戻る時間もたっぷりとあった。
 そして、最後に付け加えられた言葉が。
「今回、我々の立場はかなり危険なものとなってしまった。しかし、ここで過激派にエルード軍を引き渡すわけにはいかない。そんなことがあれば、イジャールとの全面戦争に入り、多くの人間が命を落とすことになる。そこで、我々は、将軍の元で、最後まで戦うことになった。艦は新たな装備をし、来るべき決戦に備えている。それは、過激なものとなるかもしれないし、そうでないかもしれない。しかし、この艦に戻ってくる時はそれなりの覚悟を決めて欲しい。もし戻らなかったとしても、我々は処罰などしない。以上」
 仮に戻らなかったとしても何のおとがめもなし、か・・・。
 ケイは、今回の作戦が今までとは違ってかなり危険なものになりそうだと感じていた。  
 もしも、過激派が勝ったら、将軍の立場はまずいものになる。その手足として動くアルテミスの立場も・・・。
 クルーたちは少し動揺しているようだ。
 そんな中、ビアードと一言二言会話を交わした艦長が、めずらしく出てきた。日頃はビアードに任せっきりで、皆の前に出てくることはめったにない。
「次に出航した時は、厳しい戦いになる。全員、必ず帰省して、今後のことを考えておくように」
 
 深夜、やっぱり艦の食堂で連中は酒盛りをしていた。
 今日は休暇宣言もあったことだし、さすがに風紀委員もやってくることはないだろう。
「よう、民間人」
 ケイをからかっているのは、ナンバー2のニンジャ。
「おめえ、イジャールから来たんだろう、帰れるのか」
 そう、アルテミスに乗る前は、ユキコと敵国に当たるイジャールに住んでいた。だが、家も過激派に壊されたし、他に行くところもないのでアルテミスに乗っていたわけだけれど。
「もともと、エルード軍出身ですよ、僕ら」
「ほう、そーだったのか、で、おめーはどうすんだよ」
 酒場で話題になっているのが、この先艦に戻るのか、戻らないのか、だった。思った以上に過激派が勢いを増しているらしい。が、実際のところどうなのか、細かい事までは分からないけれど。
「僕は帰るところなんかないし、ここにいますよ。そう言うディーゴさんは?」
 コードネーム、ニンジャの本名だ。
「俺もな、別に行かなきゃいけねえところなんてねえんだ。ま、しばらく休暇だっつーからよ、せいぜい遊びに行くぐれえかな」
 彼はドスの聞いた声でがははと笑った。スキンヘッドだし、刺青入れてるし、すごい筋肉だし、一見ものすごく怖い。でも、話してみると正反対で、情報通だったりもする。
「まあよ、俺みてえなのは、上から言われたことをはいはいって聞いてるぐれえしか、取り柄がねえだろ、他の基地に転属にでもなってみろよ、恐ろしいんだぜ?ここが一番楽でいいぜ」
 がぶがぶっとビールを一気に飲み干す。
「でも人数が減るかもしれないな」
 ケイのつぶやきを、ディーゴは笑い飛ばした。
「いらねえ人間はいらねえ。邪魔なだけだ」
 確かに。それは一理あるけれど。ケイも手元にある焼酎を飲んだ。
「しかしよ、家族のあるヤツらもいるしよ、一概にそうは言えねえけどな」
 ディーゴは顎で斜め後ろをしゃくった。ケイが視線で追うと、ナイトが一人で飲んでいる姿が目に映った。日ごろからクールではあるけれど、別に暗いわけじゃない。
「あいつん家はたくさん人間がいてよ。嫁だろ、子供だろ、親だろ、それと、兄貴の子供の面倒も見てるらしいぜ。あいつがいなくなったら一家は路頭に迷うんだって」
 ディーゴがこそっと教えてくれた。
「ふーん」
 物知りのディーゴは酒に酔ったせいもあって、ぺらぺらとしゃべりだした。
「ビアード指令はな、イジャールに家族がいてさ、もう何年も帰ってねーんだとよ。この艦に左遷されたのが運のつきだよな。あのオッサン、ここに来るまでは腕利きの司令官だったんだぜ。それがこんなところによお」
 ディーゴのネタは明け方まで尽きることがなかった。

 ユキコは、身支度を整えていた。
「帰るの?」
 そろそろお昼になろうかと言う時間帯。ケイはユキコが荷物を詰めているのを、二段ベッドの上に座って見つめていた。
「うん、心配かけたから」
「そっか」
 ユキコが化粧をするのをじっと見ていた。
「何よ」
「いいや」
 しばらく会えなくなるな。
 この前もはぐれてしまったし、本当は一緒についていきたい気分だった。
「ケイはさ、どうするの?」
「んー、どうすることもないんだけど、行くところないから、その辺ぶらつくぐらいかな」
 ちょっと寂しいけど、仕方ない。家族も誰もいないし。従兄弟ならいるけど、落ち着かない家に行くのも、どうかと思う。お互い気を使いすぎて、休暇になんかならない。
「それじゃあさ、家、来る?」
 ユキコが事も無げに言った。
「え。でもさ。いいわけ?」
「一人増えてもそんなに変わらないでしょ。それに、なんでケイが遠慮しないといけないのよ。ほら、早く支度しなさいよ」
 ケイは一人寂しくその辺をうろついてる事を考えると、ユキコと一緒にいられるのは嬉しい事だった。
 二人は仲良くユキコの家に帰省することになった。

アルテミスの矢 Ⅲ 5

2008年01月13日 01:36

 そして。
 それぞれの休日を楽しんでいるアルテミスの乗組員とは裏腹に、恐るべき事を画策している連中がいた。
「やはり大統領はブラックボックスを持っていないのか」
 シュルキアから南へ、遠く離れた過激派のアジト、リュスペアだ。一つの基地として機能する、エルード軍のの拠点だった場所だ。しかし、過激派が占拠して以来、そこは彼らのアジトとなっている。
 そこで腕組みをして立っているのはハーミット。長い黒髪を一つに縛り、黒い皮のジャケットを着ていた。
「そうだ。我々の調査では、少なくとも大統領の近辺には置いてない」
 もう一人は、過激派の代表、シャンデュール将軍とは相反する位置にいる、バルディウス将軍。ハーミットよりも身長は低く恰幅はいい。
「私の読みが正しければ、ブラックボックスは、アルテミスにある」
「なんと!」
 バルディウス将軍の部屋にハーミットの声が響いた。彼は驚きを隠せなかった。
「この前危うく沈めてしまうところだった」
 ハーミットの呟きにも近い声に、バルディウスは、椅子にもたれかかったまま頷き、咳払いをしてから言った。
「うむ。その筋の情報によるとな。確かな情報ではないものの・・・。だが、一番目の届きにくいところはあそこしかあるまい」
 ハーミットは、バルディウスから目を反らして、眉をひそめた。
「まさか、な」
「そのまさかの可能性も、捨てきれんだろう?」
 バルディウスはハーミットを観察するかのように見ていた。
「シャンデュール将軍の持っている可能性は?」
「可能性としてはあるだろう。しかし、シュルキアにいる以上、いかに警備が厳しくても、ブラックボックスを守り通すのは難しいのではないかと思われるが」
 エルード軍自体が分裂しているのだ。いくら、セキュリティを厳しくしても、過激派がいつ迷い込んでくるか分からない、危険性がある。
「確かに」
 ハーミットは腕組みをして、うなずいた。
「そこでお前の出番ではないか。何とかして、ブラックボックスの存在を探るのだ。しかし、だ。もし、本当にアルテミスにあるとするなら、今まで味方にすら隠し通してきたのだ。一筋縄ではいくまい。奴はかなりのやり手だぞ」
 バルディウスは鋭くハーミットを見ていた。が、彼は落ち着いた様子で言った。
「ストネッドが、やり手だとはとても思えんがな。しかし、もしブラックボックスが本当にあの艦にあるのならば、評価を改めないといけないようだな」
 もし、アルテミスにあるのだとすれば、それを今まで隠し通してきた事、そして、艦の上なので沈めばブラックボックスも一緒に海の藻屑となる事。ハーミットが評価と言ったのはその部分にあった。
「で、一つ、聞いておきたいことがある」
 ハーミットは、鋭いバルディウスの視線を感じながらも、あえて余裕のあるふりをしていた。
「何だ?言ってみるがいい」
 挑戦を受けるかのようにバルディウスが言った。
 それに対して、ハーミットが冷静に切りこんだ。
「核を手にしてその後どうするつもりか?」
 はっはっは。バルディウスは軽く笑った。
「そんなもの、抑止力にしかならんだろう」
 やはり、ハーミットの問いには答えなかった。彼が知りたかったのは、核を使うつもりなのか、ということだった。核の着弾地点はもちろん敵国イジャールに設定されているだろう。
 そして、抑止力の為だけに必要ならば、あえてブラックボックスを手に入れる必要性はない。真実を語らなくても、抑止力手に入れることができるからだ。
「とにかく、君はブラックボックスを手に入れることを最優先したまえ。君には最新鋭の戦闘機を授ける。手段は問わない。健闘を祈っているよ」

 ハーミット、本名リョウ・ヤンシュウは落ち葉の舞い散る並木通りを歩いていた。吹き抜ける風が少し冷たく感じる。
 過激派の考え方である、長年戦っているイジャールとの戦いにけりをつける、と言う方針には賛成だ。逆にシャンデュール将軍の、戦いをしないにもかかわらず、大量の軍事予算を割き、軍備を整えている、今のやり方にはどうしても賛成しかねる。だから、今は戦うのだ。
 しかし彼は、過激派に属しているものの、バルディウスには少し気に入らないところがあった。
 今度は核が欲しいときたものだ。
 確かに、大統領が持っているよりも、我々が手にしているほうが間違いなく有利に事が進められる。言っていることは間違っていないのだが、最後の切り札までをも持ち出してくるとは。場合によっては核を使うつもりなのだろうか。
 さすがに、そこまでしなければならない、という考え方には賛成しかねる。
 他にも疑問点はあった。穏健派の切り札であるはずのXファイターを凌ぐほどの最新鋭機をどうやって手に入れるのか。それだけの戦力はバルディウス側にはもともとなかったはずだ。それ以外の戦力もそうだ。あれらはどこからどうやって手に入れているのだろうか。
「確かにストネッドを墜としてやりたいとは思うがな・・・」
 リョウは小さくため息をついた。
 どうやって、ブラックボックスのありかを捜せばいい?艦の中にあるならなおさらだ。今は停泊しているが、出航してしまえば中に入るチャンスはない。
「核の雨まで降らせるつもりはないが・・・」
 現在のエルード軍の穏健派のやり方にもついていく気はない。そうなると、やはりバルディウスの指示に従うしかないのか。
「ちっ」
 これは貧乏クジかもしれない。
 シャンデュール将軍のやり方も気に入らなければ、バルディウス将軍のやり方も危険な匂いがする。しかし、どちらかにつかなければ、空には上がれない。
 やがて、リョウを待ち構えていたかのように、落ち葉の舞い散る中、駆け寄って来る女性が見えた。
「メノーリ。待たせたか?」
 彼は手を振ってそれに答えた。
「いいえ。さっき来た所よ。で、どうだったの?」
 メノーリと呼ばれた女性は、ブロンドの巻毛を煌(きらめ)かせて、リョウの手と自分の手を絡めた。
「将軍は核が欲しいんだと」
 リョウは早速さっきの話しを持ち出した。
「ええ?でも、それって、軍の判断では使えないんじゃないの?」
「うむ。大統領の持っているべきブラックボックス、あれはどうやら、穏健派の将軍側にあるようだ」
 メノーリはリョウより少し背が低いが、他の女性から見るとまるでモデルのようなスタイルの良さ。
 リョウはそんな彼女の冷たくなった手をそっと握った。
「なんだ、冷たくなってるじゃないか。待ってたんだろ」
 言いながら、彼は彼女の細い肩を抱いた。彼女の香水の香りが軽く匂う。
「私、冷え性なのよ。ねえリョウ。今度は遠くに行かないで、近くにいてくれる?」
 リョウは小さく左右に頭を振った。
「今度は、お前にも仕事がある。イヤなら断ってくれても構わないが」
「私、に?」
 メノーリは不安そうな顔をした。物憂げな表情を象っている長い睫毛。目の下のほくろは彼女をますますセクシーにしている。
「いや、やっぱりお前を危険な目にあわせるのはよそう」


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