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アルテミスの矢 Ⅱ  1

2007年10月02日 11:34

 ここはイジャール国の辺境の地。ルビルという小さな田舎町。
田舎だけれど、海も近いし、生活するにはなかなか環境も良い。都市部から離れてはいるが、重要な施設が特にないことから、戦争もここでは無縁のものだった。
 そんな小さな町の外れの小さな家で、いつもと同じ会話が交わされようとしていた。
 ケイ・シラカワはいつものように朝ご飯を食べていた。
「ほら、早くしなさい、遅刻するわよ!」
 朝だってのに大きな声でせかしたててくるのはユキコ。一年前に結婚したのだ。
「わーってるよ」
 パンをいっぱいに口の中に押し込みながらケイは言った。
 わかってるけど眠いんだ。朝からご飯を食べろと言われても、身体がなかなか受け付けないんだ。わかるだろ、そんなこと。
 パンを食べながらぶつくさ言うが、
「だったらもっと早く起きなさい」
 その一言に、もはや言う言葉はない。
 その通りでございますです。
 横目でユキコを見ると、黒い長い髪を後ろで一つに束ねたユキコの後姿が見えた。キッチンに立っている彼女の後姿は一年前とはぜんぜん変わっていない。
 こんな小さな家だけど、それにこんなイナカだけれど、ここに住むことをユキコは快諾してくれて、一年が経った。家の屋根裏部屋から外を見れば海が見渡せる、まあ、今の自分の置かれた状況を考えると、分相応な家だった。
 毎日恒例となっているドタバタ劇場を終えてケイは家を飛び出して職場に向かった。
 仕事場は、自転車で十五分ぐらいのところにあった。坂道を登らなければならないのが難点だが、そんなことも言ってられない。
 とあるプログラムや部品を製造している工場で、このあたりの町の人たちはたいがいここの工場になんらかの形で勤めている。町の規模からすると、工場の規模は結構大きいほうではないかと思われる。
「おはよ」
「ちーっす」
 自転車を降りたところで会ったのは近隣のナイジェスだ。みんなはナッシーと呼んでいる。
 ナッシーと共に、持ち場に向かう。
「なーなー、あの噂、知ってるか?」
 ナッシーが歩きながら聞いてきた。ナッシーとは同じ作業場だった。
「あの噂って、どの噂だよ」
 二人は持ち場につくと、さっさと作業にとりかかった。
 ケイは手を止めずに半ば聞き流していた。
「ここの工場さー表と裏があるんだってよ」
「へー」
「表向きは部品工場だろー、でもよ、よく考えてみっとな、こんなイナカに工場があると、不便だろー?」
「ま、そう言われてみればそうかな?」
「だってな、部品を内陸の都市まで運ばないといけないんだぜ?」
「ま、それはそうだね」
「だからさー、本当は、コソっとさ、機密部品つくってたりするんだぜ」
「ま。そうでもしないと儲からないんじゃない?プログラムのほうは専門職の人に聞いてみないとわかんないっしょ。僕ら平凡な人間には」
「だーかーらーさ」
 ナッシーは言葉に力を入れるごとく、指先でつんつんしながら言う。
「つまりさ、カモフラージュじゃない?って言いたいわけ」
 ケイは初めて手を止めて、ナッシーを見た。
 ナッシーはくせっ毛の茶色い髪に鳶色の瞳。身長は低くて、髭が濃くなければ子供のようだった。
「僕らはカモフラなのね」
「そうそう。で、なんか作ってんのよ」
「知るかよなーそんなことさー。まあさ、僕らは今まで通り生活ができればそれでいいんだよね。深いこと知らなくてもさ、いいんじゃないの?」
 ケイの問いに、ナッシーは相変わらずつんつんしながら言った。
「なんか作ってるって、何か知ってる?」
「さあ?」
「ヤバイらしいぜ」
「どうヤバイんだよ」
 ケイはナッシーにつめよった。
「軍事関係みたいだ」
「なぬ」
 ケイは思いっきり顔をしかめた。
「一年も務めてて知らなかったぞ、そんなことは」
「そうだろ、俺も知らなかった」
 ケイは今住んでいるイジャール国の敵に当たる、エルード国の軍に在籍していたことがある。
 国同士は敵扱いしてはいるが、住民は住みやすいところに住めればそれでいい。ケイもそういった理由で今では敵国にあたる場所に住んでいた。もちろん、感情的になっている国民もいるので、あまりうかつには過去を話せなかったが。
 ただ単に、軍から離れたかった、というのもある。そして見つけたこの地では戦争なんかとは無縁だし、安心して暮らせる。そう思っていた。
 その矢先、ナッシーから嫌な話を聞いてしまった。
「悪い冗談じゃないの?」
「さあ。確かめたことねーからな」
 結婚して一年、やっと生活が落ち着いてきたのに。
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アルテミスの矢 Ⅱ  2

2007年10月02日 11:35

 大食堂で、昼休みを過ごしていた。
「ああーねみい」
 昼食を食べ終わると、みんな眠くなる。
 ケイもさっきの話なんか忘れてうとうとしかけていた頃だった。
 突然、警報が鳴り響いた。
「ち、何だよ、火事か?」
 ケイは飛び起きた。聞いたことのあるサイレンだ。軍にいた頃の記憶がよみがえる。
「まさか」
 ナッシーが話していた噂のことが気になった。考えすぎだろう、と思う。だけどなんだろう、この妙な緊張感は。
「ナッシー、ヤバイよ」
 ケイは自然と、食堂から飛び出していた。
 外でもサイレンが鳴り響いている。サイレンに混じって、地響きがする。そして、戦闘機の風を切る音!
「まさか、俺の言ってたこと、当たり?」
「だったらどうする?」
「逃げようぜ!」
 工場にいた人々は驚き、蜘蛛の子を散らすようにあちこちに離散していく。
 二人も作業着を着たまま、自転車置き場に走った。
 家にはユキコがいる。
 どこに行ったらいいかわからない。だけどとにかくこの辺りから離れないと。
 工場は少し小高いところにある。ケイの家は海に近いところにある。ケイは途中で家の方向を見てぞっとした。
 海からはたくさんの揚陸艦らしき姿が見える。
「ナッシー!早くしないとまずい」
 自転車をこぎながら、大声で言う。
「あれ、エルードの船だ!僕らどうなるかわかんないぞ!」
「なんだって!」
 敵国が攻めてきたのだ。しかもいきなり!
 こんなイナカを攻めてどうするというのだ。

 ナッシーと途中で別れたケイは、敵の攻めてくる海に向かって走った。海の近くの家にはユキコがいる。
 銃を構えた兵士と戦車が遠くを走っている。
 冗談じゃないぞ。
 ケイが家に転がり込んだ時には、地響きと同時に戦車が外を通り過ぎていくのが窓から見えた。
「ケイ!」
 しばらく息が上がって話せなかったが、黙ってユキコを抱きしめた。
「逃げよう、ユキコ」
 わずかにケイよりも身長の低いユキコの肩を両手で支えた。
「エルードが攻めてきたようだ。ここも危ないかもしれない。揚陸艦がたくさん見えたんだ」
「でもどうやって!」
 窓の外には戦車とエルード兵が見える。これをかいくぐらない限りここから離れることは出来そうもない。
「ユキコ、茂みに隠れながら走るぞ」
「わかった!」
 ケイと同じく元エルード軍にいたユキコは毅然としていた。
 激しい地鳴り。何台もの戦車が通り過ぎていく。
 二人は何も持たずに、そっと家の裏手の茂みに身体を滑り込ませた。
 そのまま、小さな林になっている小高い丘に登る。この中なら戦車も入っては来ないだろう。
 ただ、人体の熱を感知するレーダーを持っていればここにいるのはすぐに見つかってしまう。なるべく遠くに逃げる必要があった。
「どっちへ行けばいいんだ」
「とにかく戦車のいないところに行こうよ!」
 二人は道なき道をただひたすら進んだ。日ごろ人の通らないであろう裏山の道、小さな林の中。とにかく普通の道を歩かずにひたすら進んだ。
 それでも、戦車のスピードに比べればどれほども進んではいなかった。
 開けたところに出た二人を待っていたのは戦車だったのだ。
「ここから進むのにはあそこを通るしかないな」
 壊れかけた倉庫が並び、さび付いたコンテナやクレーンがある。
 戦車は倉庫の表側、トラックが着けるところに数台並んでいた。
 ケイ達はねずみのたくさんいそうな、倉庫と倉庫の間を進むことにした。
 時々、爆音を轟かせながら戦闘機が飛んでいく。地上戦で邪魔なものを排除するためだろうか。
 ケイは倉庫の屋根の隙間から上空を見る。
 見なれない戦闘機が一瞬だけ見えた。
「あれは・・・何だろう」
「私も見たことない」
「一機だけかな」
「わからないけど」
 二人は金網を越え、別の倉庫の裏側に出た。まだまだ倉庫地帯は続くようだ。戦車の音も聞こえる。
「ユキコ、疲れた?」
「ううん、平気」
 でも、ユキコは汗だくになっていた。軍を辞めてから、激しい運動もしなくなっていた。つらいんじゃないだろうか。
 ケイは一息入れようかと思った。このまま進んでも、戦車のほうが進むのは断然早いし、違うルートを見つけなければずっと追いかけられることになる。
「少し休もうか」
 巨大な倉庫裏側の、さびたコンテナに座った。

アルテミスの矢 Ⅱ  3

2007年10月02日 11:36

「またきた」
 ユキコが指差した先には戦闘機。一直線にこちらに向かって飛んでくる。
「うっそ!」
 戦闘機は高度をさらに下げ、本当にここに向かってくるかのように見える。
「あれは・・・」
 Xファイターによく似ている。が、そんなことを考える間もなく、オレンジの光りをエンジン部から放って、その直後、コックピットから何かが飛び出した。やがてパラシュートが開く。同時に戦闘機がすごい勢いで墜ちてくる。
 二人の頭上を通りすぎて、
 ドーン。
 間一髪だった。大きな音がして、これから進もうと思っていたいくつか先の大型倉庫に墜落した。
 パラシュートは戦車のいる辺りに降りたようだ。
「何だったのかな」
「そうね。こちらは丸腰だしね」
 そうなのだ。イジャール国は、敵の攻撃を想定していなかったのか、ここのイナカには戦力を置いていなかったようだ。先手をとられて、敵に対して反撃できずにいるのが現状だ。
 だから、戦闘機が落ちる理由などないのだ。滞空ミサイルなど配備していないし。
 二人は手を取り合ってさらに先に進むことにした。
「ケイ。このあたりの地形さ、考えてみたらね」
 ユキコは、かつては戦闘機のナビゲータをしていただけあって、観察力があるみたいだ。
「主要な道路はR25とR33あとR122だよね」
「うん」
「それ以外は、山に囲まれてて、脱出するの難しいよね」
 ピンと来た。ユキコが何を言いたいのか。
 ここはイナカだから、都市部みたいに発展していない。だから、山を縫うようにして造られている道路以外に、この町を脱出する方法はないに等しい。
 ということはどう言うことかと言うと、敵にしてみれば、そのポイントを全て押さえることが出来れば、この町の人間はほとんど一網打尽にすることができるわけだ。
「山にこもるしかないのか・・・」
 歩きにくい裏道を行きながら、ケイはつぶやいた。遠くからはあいかわらず戦車の進む音が聞こえてくる。
「無理よ、私達、何も準備もしてないし、それに、その後どうするのよ。隣町まで何十キロもあるのよ」
 ケイは唸った。良い考えが思いつかない。
「でも、敵につかまったら。殺されるかもしれないんだよ!」
 これは戦争なんだ。殺されなかったとしても、捕虜として扱われ、その先の保証は全くない。特にユキコは女性だ。何されるか分かったものか。
 ケイは唇をかみ締めた。
 彼女はは誰にも渡さない。
「何十キロもあっても、敵に捕まるよりか、いいだろ。僕らは軍にいたんだから知ってるだろ、捕まるとどうなるか」
 ユキコは黙って、頭を垂れた。
「がんばろうよ、ユキコ」
 二人はやがて、さっき戦闘機が墜落した倉庫に出た。
 倉庫の中は火の海だった。
「熱いな」
 コンテナが転がっている。このコンテナにそって行けば敵に見つかることもないだろう。
「行こう」
 と、その時。
 銃を持った兵士が目の前に現れた。たまたま付近を巡回していたようだ。
「止まれ!」
 兵士は言った。
 ケイはユキコをかばうようにして立った。
「ここで何をしている!」
 ケイは鋭い目で相手を睨み付けた。隙あらば、銃を奪って逃走するつもりでいた。
「来い!」
 兵士は銃で向こうに行くようにと指図した。
 銃口がそれた瞬間、ケイは体当たりを食らわせた。
「うっ」
 兵士よりもケイのほうが体格は小柄だったが、面食らった相手はしりもちをついた。そのままケイは兵士につかみかかる。銃をつかんでの取り合いになった。
「このっ」
 兵士はトリガーを引いた。
 ズドン!
 しばらくの間があって、ケイの太ももから血が流れ出した。
 ケイは強く歯をかみ締めて、渾身の力で兵士のみぞおちを殴った。さらに頭突きを食らわせる。兵士がやや伸びたところで、ユキコがすかさず銃をとりあげる。
 そのまま二人はそこを後にした。銃声で他の兵士が集まるかもしれないからだ。
 しかし、右足を撃たれたケイは遠くまで逃げることができなかった。
 燃えている二つ隣の倉庫の中に入った。
「うう・・・」
 ユキコが止血をしてくれている。
 しかし、これで遠くまで逃げることは出来なくなってしまった。どうすればいい・・・?
「ユキコ。逃げろ」
 額に脂汗を浮かべたまま言った。
「ばかね・・・」
 痛そうな顔をしてユキコに言ったって、通用するわけがない。彼女はかなり強がりだし、実際強いところもあった。ナビゲーターをしていたころも彼女に元気付けられていた記憶があった。
「一人だったらなんとかなる。だから逃げろ」
 ケイは顔をしかめて、倉庫の中の荷物に寄りかかっていた。汗をびっしょりかいて、彼の短い髪は濡れていた。
「だめだ、ユキコ。今回だけはゆずれない。行け」
「い、いやよ、一人にしないで!」
「だめったらだめだ!お前一人だったら逃げられるだろう!これ持って早く行け」
 ケイは兵士から奪った銃をユキコに突きつけた。
 ユキコは、泣きながらそれを受け取った。
「早く行け。見つかるなよ」
「ケイの馬鹿!」
 ユキコは、泣きながら倉庫を後にした。

アルテミスの矢 Ⅱ  4

2007年10月02日 11:36

 倉庫の遠くの扉が開く音がした。数人入ってくる物音がする。
 ユキコは無事でいるだろうか。上手いこと逃げられただろうか。ケイは彼女の心配ばかりしていた。さっきまでここに彼女がいたぬくもりが忘れられないでいた。朝食の時のくだらないやりとり、朝起してくれるユキコ。ああ、どうしてこんなことになってしまったんだろう。
 回想にふけっていた彼を現実に引き戻したのは、近くまで迫ってきた兵士達の物音だった。靴が床を蹴る音、荷物をどかす音・・・。
 ここが見つかるのは時間の問題だ。
 こうなったら覚悟を決めるしかない。
 倉庫の中は暗くてよく見えない。コンテナやいろいろなものが雑然と置かれている。なんとかそれらに溶け込むことはできないだろうか。
 足音は少しずつこちらに近づいてくる。
 ケイは、足音のする方向を向いて目を凝らした。頭上の高い位置にある窓からわずかな光りが差し込んでくる。
 足音はケイのことを見つけると止まった。距離は十メートルぐらい。
 暗くてよく見えない。けれど少しずつ近づいてくる。見つかった。
 これまでか・・・。ケイは覚悟を決めた。
 上からの光りが近づいてくる兵士の胸の辺りを照らす。
「!」
 見覚えのあるマーク。三日月と、矢の交差するマーク。これは・・・!ケイの短い軍隊生活の中でも、見覚えのあるものだった。
 しかも陸軍の軍服ではなくて、フライトスーツ!
 さっきのパイロットなのだろうか・・・。
 ケイは目を凝らして、動向をうかがっていた。逃げることも、どうすることもできないのだから。
 ヘルメットのせいで顔はよく見えなかった。
 そのとき、がさがさと、別の方向から、他の兵士の音が聞こえてくる。
 そのパイロットはチラっと他の兵士たちの方をを見ると、銃を頭上に向けて二発、発砲した。
「ここで待っていて。迎えが来る」
 ささやくように言ったその声は!
 彼は上着のポケットから通信機を取り出すと、ケイにポイっと投げた。
「どうした、いたのか!」
 他の兵士の声。
 彼は踵を返すと、元来た場所を戻っていった。そして。
「殺しておいた。心配はない」
「何も殺すこたぁ、なかったんじゃねぇのか」
「軍の機密事項だからな。機体の回収もしなければならない」
「ヤダヤダ、俺たちも係わり合いたかないね」
「そのほうが懸命だな」
 やがて、靴音が遠のき、兵士たちは、ようやく倉庫を出ていったようだ。
「はぁぁ」
 ケイはその場に倒れこんだ。死ぬかと思った。
 傷に触れた手はべったりと赤いものがまとわりついた。血が止まっていない。
 しかし、まだ助かる見こみがある。あの三日月と矢の交差するマークは、アルテミスという空母だけのもののはず。そして、さっきの人物は、かつてのXファイターのパイロット。 
 通信機をいじくると、声が聞こえてきた。たぶん、現在の位置を知らせる機能もあったはずだ。
「戦闘機の回収班を現地に派遣・・・」
 次々と軍用の無線が聞こえてくる。
「もうしばらくかかりそうだ、そこで待機願う」
「了解。怪我人がいる。なるべく急いでくれ」
「アルテミス、了解した」
 ケイはその場に横になった。たくさん血が出たせいか、とてもだるい。足は痛むし、なんだか気が遠くなってきた。
「その前に、僕、だめかも」
「何言ってんのよ、たかがそれぐらいで情けない!」
 ユキコの声が、聞こえてきそうだった。

アルテミスの矢 Ⅱ  5

2007年10月02日 11:37

 どれぐらい経っただろうか、日も暮れかかった頃、倉庫にまた兵士たちが入ってくる。
 今度の兵士は無駄口ひとつたたかずに、一直線にこちらに向かってくる。
 ・・・今度こそ、アウトかな・・・。
 ケイは起き上がる元気もなく、倉庫の荷物に上半身をもたせかけ、朦朧とする意識の中で、彼らをただ見ていた。
 彼らは、ケイのところまで来ると、目配せをしあい、ケイをかかえあげる。
「あ・・・」
 何も話す間もなく、彼らは、足早に倉庫を後にした。
 そして、どれぐらい歩いただろうか、戦闘ヘリが見えてきた。ケイを乗せ、兵士たちも飛び乗ると、ヘリは足早にその場を去っていった。
 
 ヘリが着陸する時には、ケイは意識を失っていた。
 そこは空母の上。空母からは、イジャールのルビルの町が小さく見える。夕日がさしこみ、白い建物はオレンジに光って見えた。
 少しヘリから離れたところには、民間人と思われる数十人の人々がたたずんでいた。
 ケイはヘリに一緒に乗っていた兵士に抱えられてどこかに連れて行かれた。
「これで全部です」
「ご苦労」
 ヘリからちょっと離れたところで偉そうに立っているオジサンが言った。オジサンはちょっとおなかがでている。頭の上のほうもちょっと危ない。
 オジサンは、数十人の民間人に向かって言った。
「こんなところで申し訳ないが話を聞いていただきたい。我々は、あなたがたの町を攻撃した部隊とは行動を別にする者です。ある理由から、今回の作戦を知り、行動を起しました。それは、みなさんが捕虜とならないために、保護すること。ただし、今は町には戻ることは出来ません。過激派が町を占拠しているからです」
「ちょ、ちょっと待って!同じ軍隊には変わりないじゃないの!」
 人々の中から、誰かが叫んだ。オジサンは動じずに続けた。
「確かに、エルード軍、と言われれば、同じ区切りになるかもしれません。しかしながら、我々は、あなた達を捕虜にするつもりはありません。現在、イジャールの港につけるのは不可能ですが、エルード側の港についた時にはあなたがたを解放するつもりでいます」
 ざわざわ。町のみんなは困っている。
「何を都合のいいことを!俺達の町を占拠したのはそっちだろう、元通りにもどしてくれ」
「そうだそうだ!俺達の町から出て行け!」
「私達何も持っていないのに!エルードで降ろされたらどうしたらいいのよ!」
「町が占拠されたら、帰るところもないじゃない!」
 みんなの不安は募る一方だった。 
「確かに、違う派かもしれない、だけどさ、これだけ戦力があるんだったら、どうして侵攻を止めないの?黙ってただ見てるだけなんて、同じじゃない?」
 オジサンはどう答えて言いか少し困っていたようだが、気を取り直して言った。
「我々にも、我々の立場がある。今、我々にできる最善のことをさせてもらったのみです。つきましては。長い船旅になりますので、狭いですが部屋を用意しました。特に行動の制限は設けませんが、これだけは守っていただきたい。作戦中、訓練中は外出を控えていただきたい。それと、タワーへの入室もお控えください」

「アデル艦長、とりあえず、さわぎは収集致しました」
 さっきのオジサン、ビアード参謀が大きなおなかを揺らしながら歩いてきた。
「申し訳ないですね、大変な役目をおしつけて」
 他の兵士に混ざってフライトスーツを着て、サングラスをかけ、金髪で長身の男が言った。
「私には何もすることができない・・・。歯がゆいことです・・・」
 彼は腰に手をやって、沈み行く夕日を見ていた。
「しかし、今、過激派を刺激するのは避けたほうが賢明かと」
 ビアードがはっきりと言った。
「わかっています。将軍が手を打つまでは待つしかありません」
「はい」
 ビアードは大きくうなずいてから、言った。
「ところで、お怪我はありませんでしたか」
「大丈夫ですよ」
「X-2は何か不具合が?」
 アデルは腕組みをした。
「ふむ。電気系統かな。何にしても、テストをあまりせずに飛んだのがいけなかった・・・。X-2の残骸は回収できましたか?」
「完了しております」
「それはよかった。将軍に新しいX-2を持ってきてもらうように頼みますか・・・」
「しかし、このようなトラブルが出るのでは困ります。敵地の真中でこんなことにでもなったらどうするおつもりですか」
「んー」
 アデルはポケットに手を突っ込んで歩き出した。ビアードも後を追う。
「X-2は投入が早すぎるんですよ。しかし、エルード軍も、過激派が最近力をつけてきたので、将軍サイドとしてはX-2投入をせざるを得ない状態ですね」
 エルード軍は、過激派と穏健派の将軍サイドに分かれている。今までは将軍側の圧力のほうが勝(まさ)っていたため、過激派を横行させずにいたのだが、ここのところ過激派は急速に力をつけてきている。噂のXファイターは、将軍側が開発した切り札で、過激派にはさわらせないように徹底されていた。
 そして、今回、過激派はエルード軍の阻止を押しのけ、敵国のルビルを占領してしまった。ルビルには、軍事関係の工場があったことは確かだが、まだ工場の全貌を把握できないでいた。穏健派は、外交で片をつけるつもりでいたらしいが、過激派が先制攻撃を食らわせた形になる。
「そして、将軍は私を利用してるんですよ。いつものように」
「X-2のテストですか?」
「そう。ま。今回は早々と墜落したX-2を片付けられたのは幸運でした。過激派の手にに渡らなくて」


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