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YOU BEAST! 一章  出撃  4

2007年09月29日 23:25

 裏山の人目につきにくいこの場所は、アジトというには持って来いの場所だった。
 草の生い茂る庭に、獣道のように、歩く部分だけが僅かに道になっていた。
 そこを進んでいくと、今にも壊れそうな建物が見えてきた。壊れそうな建物の隣には大きな倉庫がある。
「アジトらしい雰囲気だね」
 私が言うと、彰は自慢気に笑った。
「もっとすごいものがあるんだけどさ」
 古びた建物の中は、思ったよりも小奇麗にしてあった。二階建てで、空いてる部屋もあるみたい。ここは一つ図々しく一部屋借りてやろうじゃないの。
「ほれ。そっちが台所、そっちが風呂場、んで、そっちがトイレな」
 ふむふむ。説明してくれるほど広くはないんだけどね。
 リュックを下ろして人心地ついた所で、冷たい麦茶をごくごくっと飲み干す。気持ちイイ。
「あー疲れたー」
 大の字に寝そべると、いろいろな事が思い出された。飛び散ってくるガラスの破片、黒いコアビースト、逃げ惑う人々・・・。
 私、これからどうしたらいいかな。
 不安はいろいろあったけれど、なるようにしか、ならないよね。
 リュックの中身を確認する。あるある、とりあえず、このパスワードとIDがあったら証券会社にアクセスできるし、通帳もあるからお金も引き出せる。
 そこに、彰がスイカを持ってやってきた。
「これ、食えよ。すっきりするぜ」
「あ、ありがと」
 お皿ごと、スイカを受け取って、一番とがってるところにかじりついた。
「なんだ。お前、トレーダーか」
 彰は書類を見て言った。
「悪い?」
「いや。別に。人それぞれだからな、儲け方は」
「ふうん、そう」
 だいたい、株で儲けてます、って言うと、ギャンブルだの働かないだのいろいろ言うヤツがいる。そもそも、ギャンブルだったら、必ず儲かると思う?株ってのはギャンブルだと思ってるヤツから損をする。毎日毎日溢れる情報を片っ端目を通して、その日のその時の企業の値段を決める。それが出来ないと利益は生み出せないんだ。ま、うんちくは置いておいて。
 だから、めったに他人に言うことはないんだけれど。
 コイツは一体そこのところをどう思ってるのかは知らないけどさ。
「何だ、パソコンが使いたけりゃ、下の部屋にあるぜ」
「え」
 貸してくれるなんて。イイヤツ?
「いいの?」
「いいっつってるだろ。ただし!」
 彰は人差し指を立てた。
「作戦司令室に変わる時があるんでな、そん時は使えねーぜ」
 なんだそりゃ。
 私が不思議そうな顔をしていると、
「まあ、いいや、ちょっと来いよ」
と、彰が言うので後についていくと、なんと!
 我が家よりもすごいじゃないか!
 パソコン三台。液晶六台。テレビも置いてあるし、一体何なんだ?
 立ち上げてみると、快適、快適。こりゃたまらない。
「なんなの?どうして?作戦って何やらかしてんの?」
 彰はへらへら笑っている。
 その時、倉庫の方角から声が聞こえてくる。
 その部屋の扉を開けるとそこは倉庫とつながっているらしい。
「おーい。彰。油圧系のトラブルが解消した。一度起動テストしてみたいと思うんだが?」
 扉からひょっこり顔をのぞかせたのは、長身で角刈りのヤツ。
「テストか。外のコアビーストは退散してくれたのか?」
 彰が腰に手をやって、首をかしげながら言った。
「いや。まだ情報は入ってきてないが」
「ならば起動テストは夜にしないか?ここにヤツらが来るとは思えないが、せっかく出来あがったばかりのところを、やられたくないだろ?」
「それには同感だ。じゃ、俺は夜まで休ませてもらう」
 角刈りのヤツは、靴を脱いで部屋に上がってくる。ずいぶん汚れてくたびれた作業着を着ている。そいつは、パソコンルームを横切って、廊下まで出たところで、急に立ち止まった。
「見なれない奴がいるな。彰のコレか?」
 角刈りは小指を立てた。
「ちげーよ。今日のコアロボに家を壊されて、困ってたから連れてきたんだ。家が見つかるまで泊めてやってもいいだろ?」
「仕方ないだろう」
 角刈りは、チラッと私のことを見て、狭い廊下をまた歩いていった。完全にいなくなると、彰が言った。
「アイツ、もともと無口なんだ。ナオキだ」
「そっか」
 さっきから、何の話をしているのかな?起動テストって何だろう。
「ねえ」
 私が聞こうとした瞬間、彰が言った。
「あっちの倉庫にはな、俺達の秘密兵器があるのだ。っつってもさ、俺らには兵器というほどのものは作れねーけどな」
 彰は、ドアの向こうに行ったので、私もついていってみる。
 そこは、鉄骨のクレーンみたいなものとか柱とか、やたらと多くて、一瞬何があるのかよく分からなかったが、しばらく彰について歩いてみて、わかった。
「ひょっとして、ビースト?」
「うむ」
 その巨大な身体は、巨大な足と鉄骨に支えられて立っている。色は黒。形は、テレビで見たことのあるものよりも、ずんぐりしているように感じる。
 あんま、強そうには見えないかも・・・。
「動くの?」
「もちろん」
「どうやって作ったの?」
「瓦礫からパーツを拾ってきてさ」
「コアは?どうしたの?」
「これはちょっとした秘密があるんだけどな」
「何何?秘密って何?」
「それは言えないな。だって、メンバーにも言ってないからさ」
 メンバーって何だ?ビースト製作委員会?で、ビーストを作ってどうするつもりだろう。タダではつくれないよ、こんなすごいものは。いくらスクラップを拾ってきたと言っても。企業が持ってるぐらいなんだから。
 スポンサーでもいるのかな?
「乗ってみる?」
「え、乗せてくれんの?スッゲー」
 私はガッツポーズをした。だって、大企業とか、儲かってる強い傭兵とかしか所持してないビーストを見て、さらに乗る機会があるなんて。感激。

YOU BEAST! 一章  出撃  5

2007年09月29日 23:29

 階段を昇って、胸の部分にあるコックピットにたどり着いた。
 本当は、彰がパイロットらしい。
 シートに座ってみる。前面と側面に大きなモニターがある。
「ね、ね。これって、起動したら、写るの?」
 私は興味津々、事細かに見ていた。
「もちろん、写るけど、ま、それは夜に・・・」
 ヴーン・・・。何かに電源が入った時の音が鳴った。と思ったら、いきなりモニターが起動画面に切り替わった。
「あれ!何、どーなってる?」
 彰は慌てて、階段のほうに走っていった。そこで大声で叫んでいる。
「おいっ宗一!今起動したのはお前?」
 倉庫に声がこだまする。
「はい、起動テスト中です!」
「え、起動テストは夜にしようって言ったじゃねーか」
 私は、いろいろなボタンを見て、つついてみた。
 プシューって音がする。何だ何だ?
「いいじゃないですかー、ちょっくらプログラムの確認をしたいだけなんですから」
「ったくよー」
 ウイーン。動き出したのは、コックピットの扉だった。あら。あらら。
 少しずつ、中が暗くなる。明かりはモニターの光。
「あーーー!!!」
 彰の叫び声が、外から聞こえてくる。
 ガコーン。完全に閉まった音がする。あらら。どうやって開けるんだろう、これ。
 モニターの下にはレーダーのようなものがある。赤い点がまばらに見える。しかも動いている。これって、何だろう?
「・・・・・・!!!」
 彰の声がどこか遠くから聞こえてくる。どこだ?
 私はキョロキョロ辺りを見まわした。狭いコックピットなのでそんなに捜し回ることもない、と、思った矢先に、シートの裏側にあったヘッドセットを見つけた。
 手を伸ばしてみるけど、届かない。シートの上に乗っかって、やっとそれを取る。
「わっ」
 そのとき、反対側の手が、何かに触れて、ビーストが揺れた。
 落ち着いてモニターを見てみると、さっき正面に移っていた景色と、ちょっと違っている。これはひょっとして、ビーストを動かしてしまったか?
 ヘッドセットをやっと装着。
『・・・下のボタンを押せ』
 彰の声が聞こえてきた。
「どこのボタン?」
『やっとつながった!左側の下の赤いの、あるだろ』
 左の。ってこれは操縦桿かな。
 私は試しに操縦桿のボタンを押してみた。
 とたんに、シートに押さえつけられる感覚、モニターは鉄骨を破壊してさらに倉庫のシャッターまでも破壊!明るい外の日差しが。そのまま、外の木にぶつかって止まった。
 つまり、私が押してしまったボタンはブースト装置のボタンだったんだな。
 やばいやばい、倉庫を壊してしまったよ。
『何やってんだよ!』
「わ、わかんなかったんだって!」
『彰さん、ビースト出現、こっちに近づいています』
『あほう!俺は乗ってねーんだ』
『そんなこと言ってるゆとりはないです、距離千五百メートル』
『たぁぁぁーどうしたらいいんだっ』
『っ距離千!』
『そこから降りるのは無理だ、おいお前!』
「私?」
『そうだっ今降りられねえ高さだからっお前、戦闘準備!』
「ほえ!」
 ななな、何言うんだ、いきなりさ!
『ハーネスを』
「何それ?」
『あー、シートベルトだ、まずはそれをちゃんとつけろ』
『距離五百』
 私は言われた通りにまずは装着。
『できたら次はヘルメットとゴーグルだ、椅子の後ろにあるだろ』
「あった」
 ゴーグルをかけると、とたんにモニターとリンクして、情報が直接そこに描き出される。それに高度計、方位計、速度計、温度計など、機体の状態を示す計器が表示された。そして、視線にあわせて、自動的にシーカーが追っていってロックする。
 今ロックされてるのは、遠くに見える、黒い機体。
 いつの間に現れたんだ、コイツ。
 コイツは、見たことある気がする。住宅街に侵入してきた、彰が人の手によるものじゃない、と言っていたヤツだ。傭兵が三機がかりで倒しにかかってたから、もうやられたのかと思ってたけど?
『まず、右手の操縦桿、そいつは上半身。動かすとモニターも動くだろう』
 言われた通りに動かしてみると、ウイーンと上半身が回転した。今、中央に捕らえているのは、黒い機体。
『で、右手のトリガーが武器発射だ。左の操縦桿は足だ、倒したほうに動く。さっき押したボタンがブースト、ダッシュ移動する、それから、足のレバーが左右並行移動、同時に踏めばジャンプだ』
 ほうほう。ゲームとだいたい一緒かな。
『わかった?』
「わからん」
『分かれ!そしていらんことしなくていいから敵から逃げろ』
「逃げる?」
 戦え、と言われるのかと思ったが。
『あほう、傭兵三機でかなわなかったんだ、ウチのカノープスがかなう訳ないだろ』

YOU BEAST! 一章  出撃  6

2007年09月29日 23:31

 銃弾が、近くに降ってきた。
 黒いヤツは近くまで迫っている。
 なんとか逃げないと、性能で劣るカノープスがやられる。
 かといって、逃げるって、どこへ?
 私は、ジャンプとブーストを組み合わせることで、早く移動できることに気がついて、空を跳んで逃げた。
 やがて、ボロボロになった町並みが見えてくる。私の家もその中の一つだ。
 ジャンプ中にモニターを注視していたけれど、自分の家がどうなってるのかまではみている余裕はなかった。
『おい、ブースト使いすぎるな、熱量が蓄積されてオーバーヒートするぞ』
 本当だ、ゴーグルに表示されている温度計の色がだんだん赤くなっていく。
 なるほど、ブースト移動ばかりには頼れないと言うことか。
 着地したら、操縦桿をめいいっぱい倒して、走ることにする。
 しかしながら、敵の機体は、カノープスよりも優秀だった。
 すごい勢いで追い付いたかと思いきや、着地にあわせてブーストをふかす。そして、振り返りぎわに、武器をつきつけてきた。
 何と言うことだろう、必死にジャンプしながら逃げてきたのに、敵は一瞬でここまで辿り着くなんて。
 これじゃ性能が違いすぎない?こいつどころか、こいつを追いかけていた傭兵にすらかなわないんじゃないだろうか?
「ま、まいった」
 武器を目の前に付きつけられて、動きを止めた。
『貴様、あの傭兵達とは違うようだな』
 さっきから指示を入れてくる彰とは違う男の声が聞こえてきた。
『なんだ?しゃべるのか?地球外のビーストかと思っていたが』
 彰の声もする。
『部外者か。命だけは助けてやる』
 言うと、そいつはつきつけていた武器を上に上げ、あっさりとその場から去っていった。ブースとを使って軽々と宙に浮いた機体は、すごい速度で視界から消えてしまった。
「な、なんだったのかなぁ・・・」
『わからんなぁ。部外者とか言ってただろう、俺らの知らないところで、知らない何かが起こってるんじゃないかな』
「その、知らない何かで家が壊れたんだよ!冗談じゃないよ、アイツら!」
『カノープスがもっと強かったら、仕返しもしてやれたろうけど、そうも言ってられないのが現状だ。さ、とっとと、帰還しろよ』
「ほーい」
 私は、カノープスを操って、来た道を引き返して行ったのだった。だいぶ操縦に慣れた頃だったのに、もう片付けるのか、もうちょっと乗っていたい気もするんだけどな。

YOU BEAST! 一章  出撃  7

2007年09月29日 23:32

「結果オーライってとこかな」
 彰が壊れた倉庫を見上げながら言った。
「ほんと、ごめん。悪気はなかったんだけどさ・・・」
 私はあまり考えずにとりあえず謝った。
「まあ、僕が起動テストしたのも悪かったんですけどね、何事もなくてよかったですねー」
 プログラム担当の宗一が言った。
「彰よりもうまいかもしれないな」
 と言ってくれたのは無口なナオキ。
「何だと!俺が動かすんだからなっ」
 彰が一人、大騒ぎしている。
 暮れかかった夕日の光が、壊れたシャッターの向こうにあるカノープスの機体を写し出した。黒い機体が、オレンジに輝いている。
「プログラムはよかったでしょう?」
 にたにたしながら宗一が言った。
 うーん、何がよくて何が悪いのか、が分からないんだけど?
 答えに困っていると、彰が宗一を押しのけて、言った。
「さて。じゃ、歓迎会でもやりますかね」
 歓迎会?それって、私のかな?倉庫メチャクチャにしちゃったのに、歓迎されてるんだろうか。はたして。そして、彰は私のことを指差した。
 え。何?
 不思議そうな顔をしていた私に向かって、一言。
「お前、名前ぐらいは名乗れ」
 あ。そうだった。
 彰と出会ってから何にも言ってなかったかな。それに、他の二人にもなんにも挨拶してなかった。
「飛日野 アカリ」
 私は、恥ずかしそうに言った。

後記

2007年09月29日 23:33

 アルテミスの矢は、書きかけで寄り道してしまいました。ちょっと、アルテミスは長くなりすぎて、書くテンポを欠いているような状態にあります。まあ、途中で体調を崩したりと、いろいろあったんですが・・・。
 その点、こっちのYOU BEAST!ではラクラク話が進みました。ま、こちらは一人称だし、深いこと考えずに書けたせいもありますが。主人公や、人間に関する描写がほとんどないですよね。この先の続きで少しずつ書いていく予定です。
実は、三日で書きました。コレ。しかも、夜だけね。ま、この先の続きを考えると、ちょっと時間はいるかもしれないですけど。
 YOU BEAST!は けだものめ!こん畜生!ってな意味です。
 CANOPUS は星の名前ですね。
 この先も、テンポよく、短編で行けたらいいなって思ってますが、たぶん、短いのは最初だけ?だんだん長くなったり、するかもしれないけど・・・。
 
 次こそは、アルテミスⅢを上げたいです。さて、どうなるかな。


今後の予定

・アルテミスの矢Ⅲ
 これで完結。現在、Ⅱと同じ量を書いたのにまだ半分。もう少し時間が欲しい。

・タイトル未定
 現代を、忍が駆ける。操るのは、精霊をとりつかせた刀。狩るのは人々のマイナスエネルギーの引き寄せる悪魂。
 途中まで書いちゃった。

・YOU BEAST!
 続き。パイロットはアカリ?彰?ストーリーはこれから考える!

・タイトル未定
 未来設定のエアレースネタで何か書きたい。けど、まだ何も考えていない。

・SKY SWORD(仮)
 長編。昔からあたためてきたストーリーだから、書き始めるのが怖い。


今回聞いていたミュージック

HIROSHI K./窪田 宏
 このCDはヤマハに行かないとないかも。もともとエレクトーン奏者で、バンド用にアレンジされたのがこのCD。窪田氏のクセのある、キーボードの弾き方、やみつきに。よくテレビのバックミュージックで使われている。フュージョン。一度は聞いてみてもイイかも。


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